日々考えている事とか考えていない事とか。
各種ネタバレ取り揃えております。
人間人間3、刀語十二巻まで読了。
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京極堂シリーズより、関口巽。
古びた畳と、紙のにおい。
ちりんと鳴る風鈴の音で、私はぼんやりとこちら側に戻ってきた。
私の中は混沌としている。
奔流の様ですらある。
狂う時には恐ろしいほどに荒れ惑い、しかし結局収まった先には細波のような不快感が残るのだ。
「君といい榎木津といい、僕の家を寝床代わりに利用するのはやめてほしい物だね」
見上げると、京極堂の不景気な顔が映る。
「どうせ君は本を読んでいるじゃないか。それなら黙っている方がいいだろう」
「確かにそうだがね、寝るなら自分の家で寝ればいいだろう」
「何となく心苦しいんだよ」
「それはそうだな。君が惰眠を貪っている間、雪絵さんは働いている訳だし」
「ああ……だからか」
家に妻がいると何だか寝づらい。
しかし家にいないという事実は自分の甲斐性のなさを露見させるだけに過ぎず、だから矢張り寝づらい。
そうはいいつつも私は平時から寝ているのだかおきているのだかわからない意識しか持っておらず、今日のように何も意識せずとも気付けば眠っているのだから所詮は言い訳に過ぎぬのかも知れない。
だんだんだん、と床が揺れる音がした。
「……噂をすれば何とやらだな」
その紹介に答えたわけでもあるまいに「僕だ!」と高らかに言い放ち襖を開いたのは、探偵、榎木津礼次郎その人だった。
「やあ本馬鹿! 寝に来たぞ! おや、猿もいるじゃないか。猿猿。今日も一段と猿だなあ! 寝ていたら寝猿だな。寝ざる言わざる聞かざる。わはははははっ!」
「猿猿言わないでくださいよ……それに、寝てませんし」
「それでもさっきまで寝てただロウっ! それに君は起きていても寝ていても同じダっ!」
それは先刻まで自ら思っていたことではあったのだが、人に言われると何処となく反発したくなる。
しかし胡乱な私は何かを言う前に、榎木津はごろんと横になってしまった。
「木場修が来たら起こせ。どうせあの箱男が来れば辺りが箱箱してくるからわかるがな」
「ちょっと待て榎さん。木場の旦那も来るのかい」
「来るゾッ!」
「何故だ」
「わはは、お前もまだまだだな京極! 僕が呼んだからに決まっているだろウ!」
主人は深く溜息を吐いた。そしてぶつぶつと呟きながら、諦めたように本を開く。
何となく手持ち無沙汰になった私は、ぼんやりと主人の捲る頁の動きを見ていた。
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