日々考えている事とか考えていない事とか。
各種ネタバレ取り揃えております。
人間人間3、刀語十二巻まで読了。
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初代真庭喰鮫の話。
一体になる。
水と――一体に。
「あ……がッ」
むせ返った。
しかし、げほげほと苦しそうに水を吐きながらも――少女の目に、涙はない。
後に『涙の喰鮫』と言われる、少女の目に――涙は、ない。
一旦自ら顔をあげ、美しく長い髪から水滴が流れ落ちる様は――妖艶で、美しい。
「わたくしは――弱い」
言い聞かせるように、自重するにしてはあまりに堂々と――少女は呟く。
「弱いものでも理想は描ける。弱いものに理想は為せない。弱いものは、無能だから」
そして、と少女は一人ごちた。
「私には理想がある。私は理想を描く。私は理想を――為す」
それは現実を殺す行為。
だから。
「現実。わたくしが弱いという現実。水が、わたくしに逆らうというこの――現実」
そんなものは殺してくれる。
少女は再び、水の中に身を沈めた。
水を吸い込む。
体内にある液体と。
同化させ。
受け入れる。
全てを。
平和のために。
平和のように。
嗚呼!
「――やっとお友達になれましたね」
水中で、喰鮫は笑った。
苦しみなど微塵も見せず、そして実際に苦しくないのであろう――喰鮫は笑い、そしてないた。
水の中で、気づかれないような涙を。
『涙の喰鮫』に、相応しく。
「ああ、嬉しいですね、嬉しいですね、嬉しいですね――悲しいです、ね」
そして、彼女は泣き続ける。
理想の現実となる日まで、永劫。
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